Jerry

1995年8月9日の出来事

Jerry Garcia
8/1/1942 - 8/9/1995
and forever alive
and
move our heart !!

photo by dancho
text by zep

1995年8月9日。この日を知らないDeadheadsはいないでしょう。この日が無ければ良いのにと思っているDeadheadsも多い事でしょう。Grateful Dead のオフィシャルカレンダーには、8月9日だけが記入されていません。

1995年8月9日。言うまでもなく、Jerry Garcia が他界した日ですね。このページはその日の記録を調べたものです。

この日、皆さんはどこでどう過ごされたのでしょうか。そして世界中のDeadheadsは？そしてGrateful Dead のメンバー達は？

この日に、ショーを行ったメンバーがいます。Bob Weir です。1960年代初頭にJerry と出会って以来、30年間。奥さんよりも我が子よりも、親よりも長い時間を共に過ごしたであろう彼は、この日、ショーを行ないました。（HPS5 としてヴァイン回覧）

時代背景 (He's Gone)

1995年8月9日のことを、今さらながら、改めて、自分なりに調べ直してみました。
それは、やはり、『今』の状況がある事の原点であり、分岐点であるからです。
この事に触れるのは、ある意味、Deadhead の方々の、一番大切に、そっとしておきたい部分をあからさまにする行為、心の中にズカズカと上がり込む行為かもしれないと思い、いささか躊躇した事もあります。
みんなが知っていて、わかりきった事ばかりでもあるとも思います。ここに書かれたような単なる情報を越えた、心の大切な部分であるはずとも思います。そういった意味で、気分を害されるDeadheadの方がいれば、どうかお許しください。

これは、私なりの、この5年間の集大成、原点のつもりで調べ、初心に還り、自分なりの想いも込めました。
私はただひたすら、みなさんと感動を共有したい、Deadへの想いを共にしたい、その原点も今一度確認したい、それだけです。

まず、Jerry の健康状態を年代を追って書いてみます。

1986年7月7日のワシントンでのショーでset２のPlayin' the Bandの後、JerryとBrentはステージを降りてしまいます。

その3日後、1986年7月10日にはJerry は糖尿病で昏睡状態になり、生死をさまよう状態になります。極度の疲労と過去の麻薬常用によって悪化させられた糖尿病によって引き起こされたと言われています。Jerryは24時間とも５日間とも言われる昏睡に陥ります。

3ヶ月後の10月4日にJerry Garcia Band として再びステージに立てるまでに回復します。場所はもちろん、サンフランシスコ。

そして12月15日には、Grateful Dead として、Oakland Coliseum Arena のステージに復帰します。（回覧終了したHP6ですね）

1987年のJerryはすっかり元気になったかのように見えました。7月のIn The DarkのリリースとTouch Of Grey のヒット。VTRで見るJerry も元気そうですね。

1988年、そしてMIDIを導入した1989年も小さな浮き沈みはあるにしろ、Jerryの健康に関しての大きな話はありません。

1990年、Brent の死。それがJerry にどのようなショックとストレスを与えたのか．．

Michael Gets は自書Taping Compendium の中で、1991年のJerry は再びDrug 常用へスリップバックして、それが彼の健康を再び損ねていったと記しています。

1992年7月に、Jerry は再び大きく体調を崩します。7月1日のオハイオのショーを最後に、以後のツアーはすべて中止になりました。
この時もかなりの重態となり、長年のツアーや悪習慣によって疲れきった身体は心臓肥大となり、慢性の肺疾患も起こしていたと言われます。復帰したのは12月2日。コロラドから開始されたツアーは、12月17日のオークランドまで8回で終了します。（このオークランド・ランの模様は、HP15とHP15MS で聴くことが出来ます。）

Jerry はこの時は、自身も積極的に健康回復に努めたようです。1986年当時、300ポンドまで肥満していたと言われる体重を、60ポンド減らしました。野菜や豆や、ヴェジタリアンのようなヘルシーな食事に切り替え、健康体を目指したのです。しかしながら、医者達を不安にする問題を無くす事は出来ませんでした。

Haight Ashbury Free Clinicにいた解毒プログラムの専門家、Dr. Frank Staggersは、Jerryは、心臓血管疾患のための危険要因をすべて持っていたと述懐しています。博士はJerry と特定せずに、一般論として、ヘロイン・ユーザーの解毒について効果があり、よく持ちいられる薬がメサドンだと言っています。（このメサドン自体が麻薬）
カリフォルニア大学で、臨床薬物学および毒物学のチーフをしていたDr. Neal Benowitzは、メサドン処理は、比較的安全であり、それは、心臓病を持っていない人々は殺さないと言いました。しかし、Jerry は心臓病、糖尿病、高血圧、肝臓疾患．．さまざまな病気を持っていたのです。

1993年は、1月末から精力的なツアーを行い、年間81回のショーを行っています。Deadのショーが無かったのは、7月から1ヶ月半と10月の1ヶ月間です。Jerry は再び、不死鳥のように蘇ったかのようです。
10月には、自分の絵画展とパルコのCMのために来日する予定でした。しかしながら、Jerry は健康上の理由でそれをキャンセルしています。CF撮影は、結局サンラフランシスコのサンラファエルで行われ、日本で放映されました。(ハワイでも撮影は行われましたが、CFはSFでのものです）

1994年は前年を上回る84回のショーを行っています。しかしながら、Jerry の健康状態は再び悪化していった、ステージ上でもかなり顕著にそれがわかるようになったと、Michael Gets は述懐しています。

1995年は2月19日からツアーが始まります。2月に6回、3週間おいて3月17日から4 月7日にかけて15回、5月19日から6月、7月にかけて26 回の計47回のショーを行なっています。御存知のとおり、7月9日シカゴのSoldier Field (回覧終了した HP10) がJerry Garcia 最後のGrateful Dead ショーとなりました。

この94年から95年にかけてのJerry は、写真で見ても痛々しいほど、めっきりと老け込んでいます。

Jerry はSan Franciscoの北の Novatoにあるthe Serenity Knolls treatment center に入院しました。 Forest Knoll （森林小丘）とも言われるここは、主に薬物やアルコールの常用を止めたい人が入るリハビリセンターのようです。
西マリン郡に属するここは、樹木に覆われた閑静な場所だそうです。
Jerry は28日間で5,000ドルかかり、一度に25人もの人が世話をするという手厚い治療を受けていました。

8月1日はJerry の誕生日ですね。53歳の誕生日を家族と祝った後、彼はスキューバのプランを友人と家族に話していたそうです。

彼はスキューバダイビングに凝っていました。

私の知人にも、大きな手術をした後もスキューバを続けていた方がいました。スキューバは、確かに全身運動で、身体にいいのですが、水の中にいる事で、身体への物理的ストレスは少ないそうです。

Jerry はハワイへスキューバをしに行く計画を立てていたそうです。
ハワイのビッグアイランド（火山のあるほうですね）を囲む暖かく澄んだ水のあるKona海岸に、Jerry の好きな潜水スポットがあったそうです。
GDMのスポークスマンの Dennis McNallyによれば、Jerry は、ただただ魚と話す事が好きだったと語っています。

Jerry の最後の潜水は、3月にカリブ海で行ったものです。Jerry と、Deborah Koons Garcia はそこで遅れたハネムーンを取ったのです。
Deborah Koons Garcia はJerry の3番目の妻(Sarah Ruppenthal > Carolyn Adams > Deborah Koons)、彼女は70年代にJerry と出会い、1994年2月に彼と結婚しました。彼女は映画製作者でした。
Jerry には4人の娘がいました。名前とこの時の年齢は、 Heather, 32歳; Annabelle, 25歳; Teresa, 21歳; そして Keelin, 6歳。 Keelin に対しては、乳母車を押して公園を散歩するような、ごく普通の良きパパでした。

そして、あの日が訪れます。1995年8月9日水曜日。

Forest Knoll の看護婦は、その日の早朝、Jerry が息をしていないのを発見します。彼女は何度か、蘇生を試みましたが、それはかないませんでした。発表された死亡時刻は、午前4:23でした。Jerome John Garcia　=　Jerry Garcia 享年53歳。
樹木に覆われた閑静な病院で、ベッドの上で、夜明け前に．．．静かな最後でした。

死因は心臓発作であるとか、そうでないとか、さまざまに言われています。
マリン郡検死官のGary Erickson はその時に様子をこう語っています。
Jerry はドレッサーもクローゼットもあるごく普通の部屋に、１人でいた。まるで眠っているように自然だった。
Jerry は、自然な原因(恐らく心臓発作)で死んだように見えるが、公式死因は毒物学テストの結果を保留にして決定はされていない。

そして、Jerry のニュースはHaight-Ashbury を駆け巡り、サンフランシスコを駆け巡り、バークレーを駆け巡り、議会にまで駆け巡り、全米を駆け巡り、世界を駆け巡り、世界中のDeadheads の知るところとなります。

CNN、ABC、MTVは一斉に特番を組み、ラジオは Grateful Dead の曲を流し続けました。あるDeadhead はサンフランシスコのニュース専門ラジオ局であるKCBSが突然にUncle John's Band を流した瞬間に訃報に気づきました。インターネットではAOL の発表後、数分間で何百というチャットグループが出来ました。

カリフォルニアでは、追悼の半旗が街中で掲げられました。

Deadheadsに限らず、さまざまな立場のさまざまな人が一様に、Jerry の死を悲しみ、追悼のメッセージを出しました。

87年に共にツアーを行ったBob Dylan は、『人間としての、あるいはプレーヤーとしての彼の偉大さ、大きさは計り知れない』とコメントしました。

Ken Kesey は、長いメッセージを贈りました。その最後は、『Ever your friend,　keez』という言葉で締めくくられていました。（原文はここをクリックしてください）

Jerry をアシッドテストで開眼させたTimothy Leary は、Grateful Dead の築いた文化は世界中で爆発し、私たちもその一部だったと語りました。

何度か共演し、同じサンフランシスコのミュージックシーンをリードしたCarlos Santana は、『ミュージシャンとして、アーチストとして、彼に置き替えられる人はいない。私は、彼の魂が、Bill Graham や Jimi Hendrix や Marvin Gaye や Miles Davis達とつながるために逝ったと思う事で自分を慰めます。』とコメントしました。

Wavy Gravy は、Jerry が守ろうとした熱帯雨林のために何かをするべきだと語りました。

Blair Jackson は、最も影響力のあった人を失ってしまったと悲しみを語りました。

当時のクリントン大統領は、MTVのインタビューに応えて、非常に悲しいとコメントしました。彼はJerry のデザインしたネクタイを愛用していました。副大統領のアル・ゴアに至っては、かつてホワイトハウスにJerry を招待したほどでした。

Deadhead のPatrick Leahy米国上院議員は、Green Mountain State で彼が招聘した最も大きな催しの２つが、共にGrateful Dead のショーだった事を思い出しました。

環境保護活動家の Randy Hayes は、世界の熱帯雨林は、良き友達であり保護者であった人を失ったと語りました。

サンフランシスコが本拠のRockWeb(オンライン・サービス)の社長であるAlex Terry は、ネットでのより所とすべく、 "Jerry Garcia Tribute Site"を直ちに立ち上げました。

David Crosby はTV出演して、Jerry の思い出を語りました。

マサチューセッツ知事のWilliam Weld は、これは自分の世代はもちろん、子供達の世代にとっても大きな損失だ、それは音楽もさる事ながら、その生き方においてだと語りました。

海を越えて、追悼のメッセージは世界中で発せられました。例えば、ヨルダン市長は、戦争記念館のシティ・ホールにタイダイのGrateful Dead の旗を掲げるように指示しました。

ボスニア-ヘルツェゴヴィナの国連使節さえJerry が逝った事に悲しみの意を発表しました。

フォルクスワーゲン社は、Thank You Jerry! のコピーの下に、Deadheads を運び続けたワーゲンのバンが涙を流している追悼広告を出しました。

そして何と言っても、Deadheads = つまり、Grateful Dead の音楽を生活の中心に据え、その生き方にまで影響を受け、Grateful Dead が築いてきた文化に賛同し、最大のプライオリティを与えてきた人々にとって、これほど悲しい出来事はありませんでした。
それは、リアルタイムでその悲しみを経験し、これを読んで、今、新たな感慨を持っているあなたでしょうし、私のように、この出来事の後に本格的にGrateful Dead にのめり込んだあなたも、そして、これからGrateful Dead を大好きになるであろうあなたにとっても。

それはもちろん、Jerry Garcia という素晴らしい友人を失った悲しみと共に、人生で最も楽しい場所、楽しい時間を共有出来たGrateful Dead Show 、つまり、

There Is Nothing Like a Grateful Dead Concert

とまで言われた時空間を失った喪失感、人生の柱を失った虚脱感なのだろうと思います。

Jerry の訃報が駆け巡ると、Haight-Ashbury に続々とDeadheads が集まり始め、ゴールデンゲートパークのポーロ・フィールドにも集まりました。自然と祭壇が築かれ、人々はろうそくを灯し、花や松かさをたむけ、スモークを焚き、ヒマワリ、彫像、芳香、毛布、絵を持ちより、バンジョー、バイオリン、ハーモニカあるいはタンバリンを持ちより、ボンゴ、コンガ、ジャンベを叩き、ギターを弾き、ダンスをし、瞑想し、夜がふけても、明け方まで思い出を語りました。警察も露骨な規制はしなかったそうです。それは、自然発生的に全米各地で行われました。バークレーのtelegraph通りおよびHaste街で、シアトルで、ニューヨークのセントラルパークで、ワシントンD.C. で．．．

8月11日金曜日、 St. Stephen's Episcopal Church で Jerry の葬儀が行われました。（そう、St. Stephen です。）
混乱を避けるために、日時、場所は公表されていなく、親族、関係者のみの葬儀でした。バンドメンバー、家族、友人、スタッフ、250人が参列しました。
Grateful Dead のメンバー、つまり、Billy, Phil, Mickey, Bobby,Vince、そして Jerry Garcia Band のメンバー、Bob Dylan、Bruce Hornsby、 David Grisman、 Bill Walton 、 Ken Kesey などが参列し、最後はスタンディングオベーションで Jerry を送ったそうです。この時点では、家族からは遺体をどういう処置にするかは発表されませんでした。

8月13日の日曜日、Jerry が逝ってから4日目、大規模な追悼集会が企画されました。
ゴールデンゲートパーク、ポロフィールドで、バンドメンバーはもちろん、Deborah Koons Garcia や娘達も参加しました。それぞれが、追悼のメッセージを話しました。娘達の中では、25歳のAnnabelle が代表してコメントしました。これには、2万人を越える人々が参加したと言われています。

Jerry の盟友、Robert Hunter は、8月11 日に、An Elegy for Jerry を書き上げ、この8月13日に発表しました。（原文はここをクリックしてください）

メンバーは、9月から10月にかけてのFall Tour の中止を決定します。発売済みのチケットは払い戻されましたが、GDTSに返却したチケットは、裏面のJerry の顔とRobert Hunter の言葉が印刷されて、再びDeadheads の元に戻されました。（写真はここをクリックしてください）

8月19日付けのSF Chronicle 誌は、Jerry が火葬された事、灰は海に散骨されるだろうと伝えました。
Jerry の意志により、マリン郡の沖合のボートから散骨されるだろうと、GDMのスポークスマンの Dennis McNally が発表したのです。この時点で、すでにJerry は火葬されていましたが、灰はまだ散骨されていなかった事がわかります。

やがて Jerry の灰は、散骨されました。それが、マリン郡の沖合のボートからだけだったのか、ゴールデンゲートブリッジの上からもだったのか、エジプト上空からもだったのかはわかりません。Bobby がガンジス川から散骨したという話もありました。

だからJerry の墓はありません。彼の墓は海であり、私たちの心にあります。

海に行けば Jerry に会えます。いや、行かなくても会えます。いつでも会えます。彼は今も私たちに影響を与え続け、心を揺さぶり続け、楽しませ続け、踊らせ続けているのですから。

彼が亡くなってからの、Deborah Koons や、前妻 Carolyn Adams（マウンテンガール）らの遺産相続争いや、訴訟沙汰は、まったくつまらない、くだらない話ですので割愛します。いくら豊かになり、金持ちになっても、物質的な豊かさに決して安寧を求めなかったJerry とは無縁の話です。それを蒸し返すのは、Jerry の本意ではないでしょう。

Grateful Dead のVTRやDVD でJerry を見て、いつも思うことがあります。この人、気楽にやってるな、好きなようにやっているなという事です。
15歳でドロップアウトして以来、音楽教師的なバイト的な事は一時的にやった事はあるにせよ、基本的に働いた事が無い、ただただひたすらギターを弾き続け、音楽をやり続けた人生。まったく、オーディエンスに媚びるという事が無い、自分の好きなように、思うままに演奏するその姿。数万の大観衆を前にしても、まったく緊張せずにマイペース．．．
一方、その気楽さとは逆に、音楽に打ち込む姿勢は、まさに音楽に身を捧げているかのように、没頭的で真摯でした。
彼がステージに居るだけで、姿が見えるだけで特別な雰囲気、ハッピーな気持ちになります。
Jerry を神格化したり、崇拝する事は彼自身が最も嫌う事に違いありません。
ただ、会って話をした事も無いのに、とにかくJerry が好きだし、いつも、ありがとうという気持ちにさせられます。

　Jerry。。。I Miss Jerry! 　and 　Thank You Jerry!!　　　　　　　4-27-2003 zep

このページはHPS5の際に書いたテキストを独立再掲載したものです。　11-08-2003　zep

　

　

　

　

　

　

　